世界で最も貧しい島でウェルビーイングを考える。


春休み。ウェルビーイングテクノロジー研究の一環で、フィリピンのセブ島に行ってきました。目的地は二箇所。セブシティの貧困地域とカオハガン島。日本ほど物質的に豊かでなくても幸せそうに暮らしているといわれるフィリピンで、ウェルビーイングをどう考えられるか。そんな対話の旅。


まずはカオハガン島へ。セブから車で30分ほどの港から船で1時間弱。大都市からすぐ近くなのにもかかわらず、サンゴ礁のなか浮かぶとても自然の豊かな島です。日本でも知られるようになったのは、この島のオーナーが日本人になったという縁から。


島のオーナー、崎山克彦さん。早期退職後、海が好きでダイビングをしていた崎山さんはたまたま売りに出ていたこの島を購入。当時は300人ほどの住民がいたが、豊かな自然がり貨幣はほとんど使わずに暮らせる環境だったこともあり、現金収入は国連の貧困基準に照らしてもその3分の1と世界でも最も貧しい水準だったそう。しかし、それでも本当に幸せそうに暮らしていることに感銘を受けたとのこと。

崎山克彦『何もなくて豊かな南の島―未来へひらく島カオハガン』海竜社、2009年

崎山さんによれば、島の暮らしが幸せなのは、みんな自然環境に感謝し、資源をシェアしながら暮らしていること。そして、家族だけではなく島の人たち同士のつながりをとても大事にしていることが大きいそう。15-6歳になれば、食料の採りかたや家の作り方も覚え、自分の力で生きていけるという実感を持てることも大事だといいます。そして、明日のことを考えず、その日を生きているということも。


島の小学校。「何もないけど豊か」という原始的な暮らしだったカオハガンに、オーナーとして最低限の教育(小学2年生までしかなかった学校を6年生までにし、また島外の中学校・高校に進学するための奨学金なども設置)や医療の仕組みを導入することに尽力し、また宿泊施設をつくり外貨を獲得できるようにしてきたそうです。


島の子どもたち。


先山さんや島の方々との食事。


外貨獲得につながっている、カオハガンキルト。崎山さんの奥さまが現地の方に教え、定着したもの。


この島で暮らす日本人、杉浦佑子さんにもお話をうかがいました。よく勉強してよい大学に入るのがよい人生という日本での環境と真逆の暮らし方に触れて、この島で子どもを育てる決意をしたとのこと。


お二人の話やカオハガンの方々の暮らしを見て、物質的で時間に余裕のない都市の暮らしの息苦しさに改めて気付きました。都市生活は自明ではないということも時折思い出すことが必要かもしれません。一方、カオハガン島も、ビーチに観光客が増え所得の差が出はじめていたり、スマホなども入ってきていたりして、昔ながらの暮らしが少しずつ変化してきている点もあるそう。いまでは600人まで増えた人口の問題もあり、島の暮らしの豊かさをどう住民同士で確かめ合い、維持していけるかという問題もあるそうです。


セブシティに戻って、ロレガ地区を訪問。市中心部の貧困地域。GKロレガという団体が、60世帯の集合住宅を建設。建設工事に参加することで入居費の一部をまかなえるようにするなど、先駆的な取り組み。


女性が毎日集まり、お土産品などの内職。こうした仕事づくりも行っています。


入居者にもインタビュー。


ここは安心して眠れるからとても幸せ、と入居者の方々。


隣接するのは、ワクワークセンターの建設予定地。ワクワークセンターは、貧困層の子どもたちと共に夢を実現できる職業訓練&事業開発の場で、湯河原のプロジェクトをご一緒しているやまちゃん(山田貴子さん)のプロジェクトです。GKロレガの入居者のなかには、ワクワークの支援でスキルを身につけ、様々な仕事についている人も多くいました。


昼は、現地NGO・Barangay ImpactのMel R. Yan氏とも意見交換。フィリピン人はハッピーな人たちで、とてもつながりを大事にしている。ただ、貧困層の場合は考え方も貧しくなってしまって、その日ご飯が食べられればいい、家族と一緒にいられればいいとなりがち。長い目で自分の生活をどうしていくかという視点も大事、とのこと。必要不可欠なものにも事欠く状態の幸せと、ある程度恵まれた状態のウェルビーイングは分けて考える必要がありそう。


続いて、市役所へ。


セブ市のWelfare of the Urban Poor Operationsのチーフ・Genevieve Alcosebaさんと一緒に、Barangay地区の視察。ここは昨年末に火災が起こり住宅再建が進められる貧困地区。

‘Fight ignites Cebu’s biggest fire’


火災では、男の子が1名なくなったそう。


以前は麻薬や犯罪などの温床で、外部からは介入できなかった地区。


再建に向けて、測量をしている。


その後は、別の貧困地区に隣接する露店へ。アトラクティブな活動を通じた支援が大事とGenさん。


コーディネイトしてくださったCareと、ワクワークのみなさん。


充実した調査をありがとうございました!